生徒と接していてよく考えるのが、「どうやればこの子のやる気を引き出せるだろう」ということです。いわゆるやる気スイッチというやつでしょうか。
正直、このやる気スイッチを押すことに成功すれば、教育における大人の役割は7~8割終わったものとみていいと思っています。
ただ、それが難しい。
さあやりなさい!
やらないと怒るよ、課題出すよ!
こういった叱咤激励はハッキリ言って無意味です。だって、生徒側に聞く気がないんですもん。右から左へスルー。話しているこちらがむなしくなります。
なので、まずは生徒に聞く耳を持たせることから始めねばなりません。
どうやれば聞く耳を持ってくれるんだろう。
これは教える側にとってはもちろんのこと、教えられる側、つまり生徒たちにとっても、解決すべき大きな問題です。
具体的な目標を考えよう
生徒に聞く耳を持たせること。生徒のやる気スイッチを押すこと。
そのためには、具体的な目標を、できるだけ具体的に示してやることです。数字があればなおよいです。
では、その数字をどうやって示すのか?
これはやみくもに示してもダメです。下手なことを言うと余計信頼を失うだけです。具体的な数字を、きちんと示してやる必要があります。
「早稲田大学に受かる」という目標を持つ生徒を例に考えてみましょう。
具体的な目標とは【勉強時間】
勉強に限らないかもしれませんが、努力が実るかどうかは、努力の量と質で決まります。
(他にもいくつかあると思いますが、ここでは割愛します。)
というわけで、まずは努力の量、つまりどの程度の勉強時間が必要なのかを考えてみましょう。
ものすごくざっくりですけど、偏差値50前後の学生が早稲田に受かるためには、3,000~4,000時間程度の勉強が必要なのです。(GMARCHであれば2,000~3,000時間、東大であれば4,000~5,000時間)
これは、ネットに落ちていた情報を拾ってきたものです。ネットの情報なので、鵜呑みにするのはもちろん危険です。
ソースは2ch、ってヤバいやつじゃない?
ただ、上記の数字は、体感的には大きく間違っていないと思います。自分自身の経験や、これまでの生徒を見る限り、大きく外れた数字ではないと思います。
ためしにわたしの受験勉強を振り返ってみます。
わたしが勉強したのは高三の夏~浪人の大体540日間(=一年半)で、勉強時間は平均一日10時間弱程度です。
高三では一日4~5時間、浪人では一日10時間以上勉強したので、平均すると10時間弱です。つまり、合計5,000時間くらい勉強し、東大に合格したことになります。「東大には4,000~5,000時間必要」というネットの情報とも乖離していません。
なので、生徒には目安としてこの数字を伝えます。受験までの残り日数が300日であれば一日10時間、200日であれば15時間、というように。
単純に「勉強しろ」って言うのと何が違うの?
これって、単に「一日10時間勉強しろ」と言うより効果があると思うんですよね。
だって、「10時間」という数字の根拠が具体的じゃないですか。具体的に根拠を示すと、説教も具体的な説得力を帯びてくる。すると生徒も、「確かにそうかもな」という反応をしてくれるのです。
ビジネスでもなんでもそうですが、相手に対する説明というのは、具体的な数字を示すことで説得力が格段に増すのです。
具体的な目標とは【目標最低点】
次は、努力の量も関係しますが、どちらかといえば努力の質の話です。
勘違いしている人が非常に多いので強調しますが、大学合格に必要なのは偏差値ではありません。合格最低点なんです。その大学の試験で、合格最低点を上回らなければ、大学に入学はできないのです。
早稲田の政治経済学部(以下、政経)を例に考えましょう。
政経は早稲田でも最難関とされる学部ですが、その配点と合格最低点ではコチラ(2018年)。
- 科目と配点:合計230(英語90、国語70、地歴or数学70)
- 合格最低点:合計167
つまり、230点満点中、167点取れば合格出来るのです。割合で言えばたったの7割! 7割得点できれば、私立最高峰の早稲田政経に合格出来てしまうのです!
あれ、がんばればイケそう…
その「イケそう」という感覚を忘れないでください。で、そのままの勢いで、実際に過去問を解いてみるんです。
すると、たいていの場合2~3割しか取れません。笑
なんだよ!
ただ、実際に解いてみると、
「長文読解/英作文/英文法」のどこに比重が置かれるのか?
どんな出題形式なのか?
時間配分は?
といったことをなんとなく感じられると思います。
そのうえで、「7割取るためにはなにをどう勉強すればよいか、なにが自分に足りないか」を考えるのです。
するとあら不思議。やる気(あるいは「勉強しなきゃヤバイ」という危機感)がふつふつとわいてくるのです。
ポイントは「具体的な目標を持つ」ということですね。
たとえば長距離走にトライしても、ゴールがどこかわからなければ、きっと不安に感じます。
いつまで走ればよいか?
果たして終わりはあるのか?
終わりの見えない戦いほど人を疲弊させるものはありません。一方、「ここまで走ればゴール!」という目安がぼんやりとでも見えていれば、人って不思議と頑張れるものなんです。
だから、まずは目標最低点と、いまの自分の得点率を確認するのです。
「過去問は直前までやらない!」という受験生はよくいますが、それはハッキリ言って一番ダメな勉強法です。
まずは1~2年分でよいので過去問を解き、目標との距離をしっかり確認しましょう。そして、目標の方向も確認しましょう。
それにより、勉強へのモチベーションが高まりますし、過去問の傾向をある程度つかめていれば、見当はずれの努力をするリスクもぐっと低くなります。つまり、質の高い努力につながるのです。
実際、勉強時間と合格最低点の話をしたあと、それまでヘラヘラ笑っていた生徒が猛烈な勢いで勉強を始め、半年間で偏差値を20弱上げ、見事第一志望校に合格したこともあります。
おまけ【偏差値について】
せっかくなので、偏差値の話に触れておきましょう。
偏差値は、その大学の大体のレベルをつかむのには有用ですが、細かい部分までは見えてこないので、その点は要注意です。
特に注意すべき点は二つあります。
それは、
- 細かい出題傾向がわからないこと
- 科目数の違いが考慮されていないこと
です。
まず一点目です。
これはいいですね。先ほどふれた通り、受験に必要なのは合格最低点です。その大学の試験で最低点を獲得することが大切なのです。
当然、出題傾向がつかめていなければ、模試では高い点数をとれていたけど、志望校の試験では全然得点できないということも普通にあり得ます。(偏差値の高い生徒ほど、いろんな試験に対応しやすい、という傾向はたしかにありますが)
二点目については、再び早稲田政経を例にとりましょう。
早稲田政経は、偏差値では70オーバー。偏差値上は東大にもまったくひけをとりません。よく、「早稲田政経は東大並みに難しい」と言ったりします。
では、早稲田政経が本当に東大並みに難しいのか?
答えは、半分イエスで半分ノーです。
どういうこと?
まずは「イエス」の部分から説明しましょう。
早稲田政経の試験は、基本的には国語、英語、社会の三科目です。
これは非常に難しく、確かに東大に受かる程度の学力が必要です。東大には受かったけど早稲田政経には落ちた、という生徒もザラにいます。(わたしもそうでした笑)
この点に関して言えば、早稲田政経が東大に並みに難しい、というのは本当なのです。
次に、「ノー」の部分のお話をすると、早稲田政経が三科目しか出題されないのに対し、東大では、国語、数学、英語、社会×2の五科目が課されているのです。(センター試験も入れればさらに二科目増えます。)
早稲田政経は偏差値70を三科目でとればOK
東大は偏差値70を五科目全てでとらなければいけないってコト?
その通りです。ひとことで言うと、全科目で高いレベルの学力を要求されるので、東大は大変なのです。
その点において、みかけの偏差値は同じでも、やっぱり東大の方が難易度は高いのです。
ただそれって、裏を返せば、一見偏差値の高い大学も、科目を絞って勝負できるなら全然狙えるってことなんですよね。
偏差値の一覧表を見て「ああダメだ」と諦めるのではなく、その中身をよく調べてください(特に私立にそのパターンが多い)。
自分にも手が届くかも、ということが普通に起こります。
最後に
繰り返しになりますが、ポイントは具体的な目標を持つことです。
具体的な目標を持つ→具体的な対策を練る→それを実行する。
これが受験勉強の王道ですし、よくよく考えると、大人になってから一番必要な力だったりもします。受験勉強って、真面目に向き合えば将来生き抜く力も養えるんです。
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