こんにちは、講師のNです。
今回はネタに走ります。東大英語”予想”問題(2020年) の英作文に取り組んでみたので、その解答速報を載せてみます。
ぜひみなさんも挑戦して、解答速報と比べてみてください!
(以下、解答速報風の文体になります)
- 問題
- 解答例&解説
- 私はですね、幅広く募っているという認識でございました。募集しているという認識ではなかったものです。
- 私は日本語を48年間使ってきたが、『募る』というのは『募集する』というのと同じですよ。募集の『募』は『募る』という字なんですよ。
- 今のままではいけないと思います。だからこそ、日本は今のままではいけないと思っている。
- 反省していると言いながら、反省している色が見えない、というご指摘は、わたし自身の問題だと反省している。
- 2000年の長きにわたって一つの国で、一つの場所で、一つの言葉で、一つの民族、一つの天皇という王朝、126代の長きにわたって一つの王朝が続いているなんていう国はここしかありません。
- 予測されて色々言われていたことから比べると、被害はまずますに収まったという感じだが、相当の被害が広範に及んでいる。
- 行政手続きの『デジタル化』と書面に押印する日本古来の『はんこ文化』の両立を目指す。
- おわりに
問題
問題は下記の通り。(全て東大のサークル 時代錯誤社からの転載)
(1) 私はですね、幅広く募っているという認識でございました。募集しているという認識ではなかったものです。
(2) 私は日本語を48年間使ってきたが、『募る』というのは『募集する』というのと同じですよ。募集の『募』は『募る』という字なんですよ。
(3) 今のままではいけないと思います。だからこそ、日本は今のままではいけないと思っている。
(4) 反省していると言いながら、反省している色が見えない、というご指摘は、わたし自身の問題だと反省している。
(5) 2000年の長きにわたって一つの国で、一つの場所で、一つの言葉で、一つの民族、一つの天皇という王朝、126代の長きにわたって一つの王朝が続いているなんていう国はここしかありません。
(6) 予測されて色々言われていたことから比べると、被害はまずますに収まったという感じだが、相当の被害が広範に及んでいる。
(7) 行政手続きの『デジタル化』と書面に押印する日本古来の『はんこ文化』の両立を目指す。
良く練られた難問ぞろいで、政治家の発言からの出題が目立った。複雑でパラドキシカルな表現のため、並大抵の英語力では太刀打ちすることが出来ない。
標準的な解答時間は約20分。
解答例&解説
以下、解答例と解説。
私はですね、幅広く募っているという認識でございました。募集しているという認識ではなかったものです。
(1)の解答例と解説。
(1) やや難
私はですね、幅広く募っているという認識でございました。募集しているという認識ではなかったものです。
<解答例>
I myself recognized that they had given invitations to as many people as possible. I never realized that they had invited the guests.
一問目からパンチのきいた問題である。「募る」「募集する」という似て非なるようで実は同じ言葉を以下に表現するか?、に受験生は腐心したことだろう。
実は(2)とのつながりを持つ問題なので、問題全体を見渡す視野の広さを問われる良問でもあった。難易度は『やや難』。
私は日本語を48年間使ってきたが、『募る』というのは『募集する』というのと同じですよ。募集の『募』は『募る』という字なんですよ。
(2)の解答例と解説。
(2) 標準
私は日本語を48年間使ってきたが、『募る』というのは『募集する』というのと同じですよ。募集の『募』は『募る』という字なんですよ。
<解答例>
I have been using Japanese for 48 years, and I have to say that “give invitations” means “invite guests”. The word “invitations” is similar to the word “invite”.
(1)の解説でも述べた通り、(1)とのつながりを持つ問題。和歌で言うところの返歌にあたる問題である。もちろん季語を入れる必要はない。
(1)を踏まえたうえでの解答となるので、ポイントはいかに(1)と同じ語彙を使用できたか?、に尽きる。難易度は『標準』
今のままではいけないと思います。だからこそ、日本は今のままではいけないと思っている。
(3)の解答例と解説。
出典は2019年のman of the yearともいうべき某セクシー大臣。
(3) 易
今のままではいけないと思います。だからこそ、日本は今のままではいけないと思っている。
<解答例>
I have to admit that I have to change Japan; therefore, I have to change Japan.
本問のポイントは、いかにして同じ語彙の繰り返しを行ったか。
というのも、セクシー大臣の発言の傾向として「平易な語彙の繰り返し使用」というものが挙げられる。語彙力に乏しいのだ、などとはゆめゆめ思ってはいけない。韻こそ言葉のマジック、言霊であり、言霊は言葉にセクシーな響きを与えるのだ。セクシーさとは、セクシーな故に生じるセクシーさなのである。
そのような時事的文脈、即ちコンテクストをどの程度読み取ることが出来ていたか?、が明暗を分けたと思われる。文法的には平易なだけに、合格を目指すのであれば取りこぼしたくない問題であった。
反省していると言いながら、反省している色が見えない、というご指摘は、わたし自身の問題だと反省している。
(4)の解答例と解説。
(4) 難
反省していると言いながら、反省している色が見えない、というご指摘は、わたし自身の問題だと反省している。
<解答例>
I regret that the criticism that I do not appear to regret what I have done while saying that I regret what I have done is the problem that I myself have.
(3)同様、出典はセクシー大臣。つまり、極力同じ語彙の反復が求められる出題であった。
ただ、(3)と大きく異なるのは、文構造が非常にとりにくいという点だ。SVOをはじめとする基本文型を強く意識しながら解答を作成しなければ、袋小路に迷い込んでしまうことだろう。というより、筆者も袋小路に迷い込んだ。
一見平易に見える語彙で複雑な表現をしてみせる。政治家の凄まじさ、そしてセクシーさを思い知らされた難問であった。
2000年の長きにわたって一つの国で、一つの場所で、一つの言葉で、一つの民族、一つの天皇という王朝、126代の長きにわたって一つの王朝が続いているなんていう国はここしかありません。
(5)の解答例と解説。
(5) 難
2000年の長きにわたって一つの国で、一つの場所で、一つの言葉で、一つの民族、一つの天皇という王朝、126代の長きにわたって一つの王朝が続いているなんていう国はここしかありません。
<解答例>
There is no other country but Japan that has existed as a nation, in a place and with just a language, a people and an Emperor’s family, which has a long history with 126 generations.
ここまでくると解答するのも飽きてくる。そして、なんだか異常に難しい。
リンカーンの「人民の人民による人民のための (of the people, by the people, for the people)」をほうふつとさせる発言であるが、非ネイティブの受験生、そして筆者には前置詞のチョイスが難しすぎたのではないだろうか。そして、よくよく見ると発言の切れ目もなんだか見えづらい。
将来官僚となるべき受験生の忍耐力が試された難問であった。
予測されて色々言われていたことから比べると、被害はまずますに収まったという感じだが、相当の被害が広範に及んでいる。
(6)の解答例と解説。
(6) やや難
予測されて色々言われていたことから比べると、被害はまずまずに収まったという感じだが、相当の被害が広範に及んでいる。
<解答例>
Compared to the expectations, I feel that the damage by the disaster is under our control; it is beyond our control.
前半部分と後半部分の対比構造に気がつくことが出来たか?、が本問のテーマであった。
- 被害はまずまず
- 相当の被害
上記がその対比構造であるが、「まずまず」という政治家独特の曖昧な言い回しを具体的な英語に落とし込む作業に苦労した受験生も多かったのではないだろうか。
一方で、発言した政治家自身は、自身の発言に含まれる対比構造に無自覚であることを踏まえると、安易に”however/but/on the other hand”といったディスコースマーカーを使用した場合、大幅な減点の対象となる危険がある。
本問においても、社会のコンテクストを読む力が求められていた。来年以降も、東大ではこの傾向が続くことだろう。難易度はやや難。
行政手続きの『デジタル化』と書面に押印する日本古来の『はんこ文化』の両立を目指す。
(7)の解答例と解説。
(7) 難
行政手続きの『デジタル化』と書面に押印する日本古来の『はんこ文化』の両立を目指す。
<解答例>
We will support both “digitization” of administrative procedures and “a personal seal” on papers which has been traditionally used in Japan.
ここまでくると「貴重な時間を費やして、一体わたしは何をしているのだろう」という自責の念に駆られる。そして、「はんこ」とは一体英語で何と表現するのか。あまりのわからなさに思わず辞書を調べてしまったのはここだけの秘密である。
さて、この問題で差が出たのは「両立を目指す」という部分の英訳ではないか。両立とは何か。目指すとは何か。表現の意味内容をセクシーに自問自答し、セクシーかつ平易な表現に置き換えるセクシーな英語力が求められるセクシーな問題であった。
やはり、セクシーさとはセクシーな故に生じるセクシーさなのである。
おわりに
(文体を戻します…)
以上、解答速報でした。最後の方は面倒になったのはここだけの秘密です。
「こんな面白い解答」「もっと良い解答があるぜ」という方がいたらぜひコメント欄までお願いします。(わたし自身、結構細かいミスがある気がします)
大喜利みたいな感じで、いろいろ話を広げていけたら楽しいですね。
以上、東大英語”予想”問題(2020年) でした。
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